三番子

『2013.鱒の森No20掲載』

 野山に青紫色のリンドウの花が咲き盛るようになると、北海道は秋の始まり。この時期は本流ニジマスのコンディションが
最高なので、迫りくる雪の季節を考えるとそれはそれで捨てがたいのだが、ふと「ニジマスは来週でもいいな」と山の恵みへ
の気持ちが勝り、僕は竿を置き鉈を携えて山へ向かう。夏を挟んで再び収穫の季節だ。
「魚は来週も釣れるけど、キノコは来週腐ってる」
これが仲のいい山友との合言葉。キノコは「盛り」が短いだけに、収穫期の僕らのモチベーションは高い。この集中力をもう少し
釣りに活かしていれば、もっと釣果に恵まれているのだろうけど……。

 春のシイタケ、初夏のタモキノコ、そして秋のボリボリとマイタケが我が家のキノコ採りルーティーンだ。マツタケ・ムキタケ
・ラクヨウ・ナメコなど採れるものは他にもいろいろあるのだが、あれこれやっているとキリがないので、欲をかかずに自分が
昔から食べてきたもの、その時に一番美味しいものだけを採るようにしている。
子どもの頃から父と一緒にやってきたことだけれど、これがキノコの食あたりをおこさない最も簡単な予防法でもあるのだ。
こんな我が家のキノコ採りは、バッタの釣りとおなじように祖父から父、そして僕へ伝えられている。
 秋のキノコ採りはリンドウの開花とともにボリボリからはじまる。深い山に入らなくても、草っ原にも出るし数も採れる。
そしてなんといってもその味と食感がたまらない。正式にはナラタケといって、近年では数種類のタイプが存在するという
こともわかっているが、なにもかにも大雑把に片づけてしまう福士家では、ボリボリは出る順番になぞって3世代で分けられている。

 最初に出るのは「一番子」。
これはスネ(茎の部分)が細く、傘も薄く柔らかい。そしてまた、草むらの中にたくさん出ているので採りやすい。一般的にボリボリと
して知られているのはこのタイプで、ヌルっとした食感と独特の歯ごたえがたまらなく、味噌汁の具として最高なのもこれだ。
世の誰が決めたのか分からないが「世界三大スープ」なんていうのがあるけれど、大量のボリボリを投入した味噌汁の美味しさと
いったら、そんな三大スープなんてチャンチャラ可笑しいレベル。最後の晩餐があるとするなら、僕は間違いなくオカカのおにぎりと、
このボリボリの味噌汁を選ぶ。

 一番子が雨に打たれたり、腐って傘が壊れるころに出てくるのが「二番子」。
一番子と同時に出たりもするけれど、ナラタケという名にふさわしく、楢の林やその根元あたりにも多く出て容姿も綺麗だ。
一番子と比べ傘が乾いていて全体がしっかりしているので、ザクザクとした歯ごたえも風味も強調されていて、汁物でも佃煮でも、
どう料理しても美味しく、量もたくさん採れるので保存用にも最適だ。この二番子の終わりあたりには、松の風倒木や切り株の根元
などから「マツボリ」なんて呼ばれるタイプが出てくる。

 そして最後、夜露が毎晩降りるころに出てくるのが「三番子」。
どうやら本名はオニナラタケという種類らしいが、この三番子のサイズ感が凄い。
スネの太さは成人男性の人差し指ほどで、傘が開くとマツタケ程度の大きさになるものもあり、それまでの2つのタイプとはあきら
かに見た目のインパクトが違う。山で出会った同じ目的のオッチャンに「兄さんこれなんてキノコだ?これボリボリかい?」と聞かれた
こともあるくらいナラタケの常識を逸したサイズ感だ。

 ただ、見た目のサイズ感やインパクトは凄いけれど所詮はボリボリなので、木の幹のような肌をしている強そうなスネ部分も、
実際には中身が白いフカフカのスポンジ状だ。手で曲げるとボリッと簡単に折れてしまう。見かけ倒しという言葉がぴったりかもしれない。
肝心の食味はというと、傘が大きく太いスネの表面も荒くなるので、味噌汁よりは佃煮や鍋のように長時間煮込む料理に向いている。
煮込んでも損なわれない抜群の歯ごたえと濃厚な風味がこれまた美味しい。
 祖父のバッタ釣りとマイタケの木を引き継いだ三代目の僕は、我が家系で最も大きな身体を持つ三番子だ。
しかし、ボリボリのように簡単に折れてしまうわけにはいかないよなあとは思う。

 今年の初物を収穫した夕食、作りたてのボリボリの佃煮を炊き立てのご飯と一緒に口いっぱいに頬張った。
「う~ん、美味い!」
多少脆くても、濃厚で抜群の歯ごたえさえあればいいかな……。